タバコのお話(3) 大田病院内科 中泉聡志


タバコは「依存症」だ!

 たばこやコカインはコロンブスがアメリカ大陸を発見し、原住民から土産としてもらったのが最初だと伝えられています。でも、コカインが100年前にその麻薬性を規制されたのに対し、たばこは1980年にWHOが依存性のある薬物だと認定されました。しかし、麻薬・覚せい剤のグループには入っていません。たばこはそれほどに中毒性の高いものなのです。また、たばこは精神的な依存が強いため、禁煙してもまたすぐに喫煙にもどってしまう傾向が強いのです。たばこをやめると禁断症状が出てくる。これは、たばこに含まれるニコチンに依存しているということです。「やめたいと思っているのになかなかやめられなくて…」という人は、立派な「ニコチン依存症」なのです。

ニコチンは毒性の強い依存性薬物

 ニコチンは青酸に匹敵する毒性を持ち、極めて短時間に吸収されます。初めてたばこを吸った時、あるいはしばらくたばこを止めていて久しぶりに一服した時に目まいがしたような覚えはありませんか。ひどいときは気分が悪くなったり、鼓動が早くなって冷や汗をかいたりします。これはニコチンの急性中毒症状です。ニコチンには、中枢神経興奮・抑制作用や、血管収縮、心拍数増加などを引き起こす作用などがあり、現在では依存性薬物と認められています。

禁断症状も現れる

 薬物依存とは、ある種の薬物を繰り返し摂取しているうちに、その薬物に対して抑えられない欲求が生じ(精神依存)、また事物によっては耐性を生じ、以前と同じレベルの効果を得るために徐々に用いる量が増加したり、薬物の中断によって離脱症状(禁断症状)が出現する(身体依存)になり、健康な日常生活が疎外された状態をいいます。たばこ依存もこの事物依存のひとつです。喫煙を続ける理由については、これまでの調査によると、「手持ちぶさた」「習慣」などがあげられ、刺激やとりあえずの落ち着きを求めたり、離脱症状を回避するために自動的にたばこに手が伸びるようになったりするケースが報告されています。

中枢神経に強い刺激

  ニコチンは精神作用を持ち、「毒物及び劇物取締法」に明記されている毒物です。強い神経毒で、中枢神経や末しょう神経を興奮あるいはまひさせます。その作用は青酸などのシアン化物と同じぐらい素早いものです。中枢神経に作用する外、例えば胃の収縮力を低下させて吐き気などを起こします。また、循環器系に対して急性の作用があり、血圧上昇、末しょう血管収縮、心収縮力増加などが見られます。推理小説などで、毒殺の道具としてよく使われるゆえんです。

脳の関門をするりと抜ける

 ニコチンは口腔粘膜、気道、肺、皮膚から吸収されます。気道から入ったニコチンは約8秒で脳に達します。脳には有害物が入らないように関門(脳血管関門)が設けられていますが、ニコチンはこれを容易に通り抜け、脳内の快楽をもたらす部位に作用することが分かってきました。これがたばこ依存、つまりニコチン依存につながると考えられます。
米国では、たばこは依存性薬物であるニコチンの供給源であるとして、米国食品医薬品局(FDA)によって未成年に対する販売、広告が規制されています。

酸欠状態をもたらす一酸化炭素

 タールには発がん作用があり、ベンツピレンをはじめとする多くの発がん物質を含んでいます。また、一酸化炭素のヘモグロビン結合力は酸素の 200倍以上あることが知られています。たばこの煙に含まれる一酸化炭素が酸素の運搬役であるヘモグロビンを「横取り」してしまうことにより、体内はいわば酸欠状態となって、動脈硬化その他の引き金となるのです。人間が呼吸によって取り入れた酸素は、血液中のヘモグロビンによって体中に運ばれます。ところが、ヘモグロビンと結び付く力は酸素の 200倍以上と非常に強力で、一酸化炭素はヘモグロビンと結び付いてカルボキシヘモグロビンとなります。これによってヘモグロビンの酸素運搬能力は低下し、体内の酸素欠乏が引き起こされるわけです。

ちょっと動いても息切れ

 一酸化炭素は大気中に含まれていますから、非喫煙者でも血中カルボキシヘモグロビン濃度は1%ほどありますが、喫煙者の場合はさらに12%高くなっています。
 また、1本の紙巻たばこの喫煙でカルボキシヘモグロビンは12%増加するといわれています。血中カルボキシヘモグロビン濃度が数%に上昇しても、健常者の場合は、自覚症状はほとんどありませんが、心疾患や呼吸器疾患がある場合は、酸素欠乏感があったり、少しの運動でも息を切らしたりします。

動脈硬化の引き金

 また、血中カルボキシヘモグロビンの高濃度が続くと、微小循環に悪影響を及ぼします。
 血液は酸素と共に全身に栄養を運ぶ重要な働きをも担っているので、栄養供給が妨げられ、また老廃物の回収も遅滞することになります。また、血管内の酸欠状態は、内皮を傷つけて、悪玉コレステロールを増やし、動脈硬化を促進することになります。これらが老化を早めることに結びつくわけです。

あなた、たばこをやめて! わたしはタバコを吸わないのに

 自分はたばこを吸わないのに他人のたばこの煙にさらされ、吸ってしまうことを「受動喫煙」と呼んでいます。喫煙者と同じ室内にいるだけで、呼出煙(吐き出された煙)や、有害成分を多量に含んだ副流煙が室内の空気を汚染し、それを吸ってしまうことで、肺がん、虚血性心疾患、呼吸機能障害などの健康被害が生じます。

アルカリ性の副流煙は目と鼻を刺激

 喫煙者が直接吸い込む「主流煙」に対して、火のついた部分から立ち上る紫煙を「副流煙」と呼びます。煙に含まれる200種以上の有害物質(ニコチン、タール、一酸化炭素など)の含有量は、主流煙より副流煙の方が多いことが分かっています。また、主流煙は酸性ですが、副流煙はアルカリ性で、目や鼻の粘膜をより刺激します。

副流煙には発がん物質が多い

 たばこの煙には4000種以上の化合物が含まれています。そして、火のついている部分の内側はおよそ500〜600度の高温になっていて、ここで起こる化学反応が数多くの発がん物質や一酸化炭素などを発生させます。
 次回は喫煙と女性の健康問題、働くものの喫煙についてお話したいと思います。

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