まちづくり・健康づくりの拠点 新大田病院建設をみんなの力で    
〜新春ユメを実現に・座談会〜

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座談会を終えて

出席者
田村 直さん(大田病院副委員長・外科医)
土井周次さん(大田病院事務長)
中西祐子さん(大田病院看護師)
伊藤悦子さん(大田生活と健康を守る会事務局長)
植田栄一さん(城南保健生活協同組合専務理事)

植田(司会):明けましておめでとうございます。本日は新大田病院建設プロジェクトメンバーと長年大田病院と共に歩んでこられた大田生活と健康を守る会の伊藤さんを交えて、新大田病院建設について語り合って頂きたいと思います。何とかして新大田病院をつくりたいというのが生協組合員の願いでもあり、職員のねがいでもあります。この事業をどうやって成功させていくのか、どんな病院にしていくのか、これから議論が進んでいくと思います。この座談会がそのきっかけになればと思います。

地域住民の命と健康を守る役割を果たせるような環境や設備を

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田村 直さん

田村:大田病院で外科をやってます田村です。副院長です。今年の8月から新大田病院建設プロジェクトチームの責任者をおおせつかりまして、月一回の会議を積み重ねてきました。僕は大田病院に来て20年になりますが、当時は手で開ける手動のエレベーターがあったり、待合室のところに畳が敷いてあって、そこにお年寄りが寝ていたりして、なかなかすごい病院だなあと思っていました。(笑)
だんだん手を入れて、療養環境整備をしてきましたが、建物の老朽化だとか、施設そのものが患者さんの療養ニーズに合わなくなってきて本格的に新大田病院建設を考えないといけない時期に来ていると思います。生協の組合員さんからもいろんな意見を出してもらって地域の人たちとつくり上げ病院というのをめざしていきたいと思います。
伊藤:生活と健康を守る会の伊藤です。まだ大田診療所と言われた時代から母がかかっていました。今日、病室に行ってびっくりしたのは廊下がずいぶん広くなったということです。しかし建物は確かに古いし、やはり新しい病院が必要なのかなあと思うんですが、地域に密着した病院なので、どこに新しい病院を建てるのか、まわりの方たちはやはり不安なんですね。地域の方たちがとても愛している病院だから余計にその思いは強いと思います。
中西:5病棟で看護婦をしてます中西です。大田病院に入職したきっかけは看護学校のときに実習に来て大田病院の雰囲気がよくて入ったわけですが、その時のうたい文句が「新しい病院が出来るよ」ということでした。すごく雰囲気はいいんですが働いてみると使い勝手が悪かったり、患者さんにとっての環境を考えると10人部屋とか8人部屋はどうかと思います。
土井:大田病院の事務長の土井です。ゆたか病院、三ツ木診療所を経て大田病院に来たんですけれど、地域とのつながりが薄いことを感じています。今後新大田病院を作っていくには地域の方といっしょにやっていかないと成功しない事業だと思います。
司会:新大田病院をつくらなければいずれ立ち行かなくなるのは建物をみてもわかりますが、あらためてなぜ新大田病院建設という大事業を行うのかということを、話してもらいたいと思いますが。
田村:僕たちがこの地域でやるべきことは地域住民の命と健康を守るということに尽きると思います。新大田病院はその中心というか拠点となる施設です。そこが役割を果たせるような環境や設備を持つことがどうしても必要になってきます。高度経済成長の頃、患者さんの入院の要望に応えようと増床を繰り返してきましたが療養環境という点は残念ながらあまり重視されてきませんでした。それがここ10年の間にたくさんの患者さんを診るだけでなく、療養環境が治療のなかで重要な位置を占めるという考えに変わってきていると思います。また職員が働きやすい環境をつくることも重要で、それが安心して安全な医療を行える体制を整えることにつながるからです。
中西:5病棟は新しい病棟なんですが、別の病棟に入院したことのある患者さんからは「ここはちがう病院みたいだね」と言われます。そういう声を聞くとやはり、きれいな病棟が必要なんだなと思います。自分たちの動き方も1病棟は奥まで部屋があり、移動に時間のロスがあって、本当に大変です。自分たちの目の届くところに患者さんがいたら理想的だなと思います。
土井:区内の病院でも、職員が親切なのは当たり前でその上で療養環境の整備や施設の改修をすすめています。その点では残念ですが大田病院は以前からのスタイルでやっているというのが現実です。そういう点を大田病院としてどうとらえていくのかが問われていると思います。

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伊藤悦子さん
伊藤:先日5病棟に入院していた人が「ここなら入院できる」と言うんですよ。前回入院した時には3日といたくないと言っていたのに、やはりちがうのかなあと。
司会:近隣の病院がサービスもよくなってきれいになってきているということですが、民医連らしさというのは差額ベッド料金がないというのが一番大きいと思いますが。その辺での大田病院の役割は地域からみると、どのように評価されてますか?
伊藤:ものすごく大きいですよ。これは。ある病院では救急ではいって「ベッドがないから1万5千円の部屋に入ってくれ」と言われました。じゃあ「連れて帰ります」って言えないじゃないですか。本当に差額ベッド代というのは大きいです。

総合性と一定の専門性を持ち合わせた医師の養成

司会:大田病院は差額ベッド代もとらず、いつでも誰でもが安心してかかれる病院をめざしつつ、医療の質も高めてきました。今後も差額ベッド代はとらないでいくんでしょうが、その枠組みのなかで、今後の医療構想や求められる機能ついても議論されていると思いますが。
田村:ひとつは地域での高齢者医療をしっかりやろうということです。高齢者医療は医学的な問題だけでなく社会的問題があったり、命が限られているという事があったりで、教科書どうりにはいかないことがたくさんあります。そういう意味では新しい分野の医療なんですね。
医療の中身の問題ですが、今の大田病院に入ってくる若手の医師の指向性というのは家庭医療やプライマリーケアという、どちらかというと専門医指向でない医師が多いのです。彼らの考え方というのは患者さんが持っているいろんな問題点を解決する能力をつけていこうという視点です。問題点を解決する能力と言うのは解決する技術を全部自分で持つ必要はないんです。交通整理をできる能力も含まれているんです。これは一見いいように見えますが、問題点を交通整理できたとしても、この患者さんは○○病院に転院、この患者さんは××病院に転院で完結するのでしょうか。病院は問題点の整理だけではすまなくて、一定の技術レベルはどうしても必要になってきます。今三年目の医師があらためてプライマリーケアの技術を身につけながら一定の専門的な知識や技術を習得していく方向ですすんでいます。僕が大田病院に来た頃は臓器別に分かれていて、心臓なら誰々先生というように専門分化していました。それが総合内科という考えにかわっていったんですが、それだけではだめだということで、一定の専門性も合わせ持とうというようになりつつあります。
もう一つの柱が救急医療です。今大田病院が月平均100台くらいの受け入れをしていますが、救急医療をしっかり出来るような実力が求められていると思います。
土井:今、田村先生から救急医療のことが出されましたが、大田病院は毎年救急隊と懇談を行い、色々な点で意見交換をしています。

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植田栄一さん

司会:医療内容という点では、高齢者医療、救急医療、一定の専門性を持った病院ということが述べられましたが、それ以外にはいかがですか。
田村:ひとつは僕の夢でもあったんですが、元気になって退院していく人と、残念ながら大田病院で亡くなって、うちに帰る人と同じように温かくみれないかということを、ずっと考えていました。どうしても病院というのは機能からすると病気が治って元気に帰る人向けに作られているんですね。病気が残念ながら病気が治らなくて人生の最後を迎える人にもやさしい環境というのが必要じゃないでしょうか。
司会:ホスピスとかターミナルケアということだけではなくて?
田村:そうですね。今の日本の医療制度だとホスピスや緩和ケア病棟に入れるのは癌の患者さんとかエイズの患者さんだけなんです。だけども老衰で亡くなる方もいるし癌以外の病気で亡くなる方もいます。その人たちはホスピスや緩和ケア病棟には入れないわけです。これは今の制度の問題点ですが、普通の一般病棟であってもやさしい環境というのがあったらいいなあと思いますね。

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小児科医療の再建も大きな課題
(子ども保健学校)

それと大きな課題ですが小児科の問題があると思います。子どもが少なくなって、いろんなところで小児科が縮小されてきています。大田病院もその例にもれず、ベッドをなくして現在では大森中診療所の外来だけになりました。この地域で子どもを生み育てていくお父さんお母さんの安心に応えていかなくてはいけないのですが、医師の確保や養成という課題をクリアしなければいけません。ただ大きな課題ではあります。
司会:あるところの健康まつりで小児科相談コーナーを設けたら、長蛇の列ができて昼食も取れなかったそうです。
田村:安心してかかれる小児科というのも地域で少なくなっているのも確かですね。
伊藤:以前は保育園の子どもの声と、小児科病棟の子どもの声がにぎやかによく聞こえていたんですよね。
司会:新大田病院を立ち上げるにも後継者の確保と育成という課題ははずせないと思うんですが看護師さんなんかはどんな受け止めですか。

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中西祐子さん

中西:入ってきて欲しいという思いはすごくありますが、厳しい体制の中で新人を育てながら新しい物も創り上げるのは大変な作業になると思います。今まで自分たちが良しと思って指導していたやり方も通用しなくなっている部分もありますし。看護学校の教え方も大部変わってきていて、叱らない指導というか、やさしく育てようというところもあって、どういうふうに接していいのかなと思いながら試行錯誤しています。

田村:4年前から東葛看学の総合実習を受け入れていますが、みんな大田病院はいいといってくれるんですね。やはり中身とか今実践している看護というのは胸を張っていいんじゃないかと僕は思うんですね。確かに昔に比べると看護師さんの年齢が下がって今までやれたことができなくなった事もあるかもしれないけど、それでもみんなで患者さんのケアをしていこうという視点は受け継がれていると思うんですよね。日々あれも出来なかったこれも出来なかったという思いはあるのかもしれないけど、もっと胸を張って仕事をしていいと思います。
司会:医師のところでは今年から臨床研修の義務化になり大田病院も厚生労働省の臨床研修指定病院になりました。今までと、どのようにかわるのでしょうか?
田村:大田病院は臨床研修指定病院(管理型)の認可をとりましたので、大田病院独自のプログラムで医師の研修が行えます。大田病院だけでなく立川相互病院などの協力病院の助けをもらって2年間の臨床研修の指導をしていくわけですが、今年2名の新卒医師が大田病院のプログラムで研修を行うことになっています。今までとの違いは2年間で基本となる科を必ず回ることが義務付けられています。内科、外科だけでなく精神科、産婦人科、小児科、地域医療、保健予防というのを期間を決めてまわります。そういったスタイルがいままでと違う点です。研修も大田病院の中だけでなく協力病院をまわっていろんな人と仕事をするわけです。彼らもいろんなことを身につけるわけですが、いいところを大田病院に反映させてもらえればと思います。

生協の班会で教えられたこと
「普通の人」の目線で生きること、死ぬことについて考えることのできる医療人に

司会:生協では青空健康相談会に力を入れてます。地域に出ると若い看護師さんがとても生き生きとして、健康チェックや相談にのっています。班会にも若い医師が参加してくれていますが地域に出ると、どんな声がかえってきますか。
田村:去年は僕が呼ばれたというよりも、呼んで下さいとお願いしました。生協の組合員さんたちと死ぬこと生きることについて、一緒に考えたいと思いまして参加させてもらいました。病院の中の勉強会などでは医療者の目線でしか話し合いが出来ないわけです。それが班会にいくと医療者の目から離れたいわゆる「普通の人」の目線で生きること、死ぬことをどのように考え、普段どんな準備をしているのか聞くことが出来て、すごく参考になりましたね。ただ生協の班会に参加されている人は健康に対する意識だけでなく生き方や自分の死に方についてよく考えてらっしゃって、一般的なレベルとは多少違うなという感じはしました。
司会:新病院建設のためには班会ももっとやっていきたいですね。
田村:そうですね。生協の組合員さんたちがイメージする病院を医療者の目線や発想ではないところで考えてもらえるといいと思います。
司会:いろいろ意見はだされたんですが、この厳しい医療情勢の中で新病院を建てるだけの経済的保障があるのか、みんな心配していると思うんですがいかがですか。

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土井周次さん

土井:昨年7月から8月にかけて大田病院の療養環境整備資金を募ったところ、7億円の資金が集まりました。本当に大田病院への期待は大きいのだなあとつくづく感じました。こういう好意を裏切ってはいけないと思いますし、職員が一丸となってやれば決して不可能な事業ではないと思います。
確かに診療報酬も今年下がるようですし、在院日数のさらなる短縮など今までのやり方の延長線上ではむつかしいと思います。

病院機能評価の受審の意義
先に魂をつくってそれに見合った器をつくること

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新大田歯科

司会:そろそろ時間になりました。最後にみなさんに新大田病院にかける思いをひと言づつ語って頂きたいと思います。
中西:とりあえず目の前にある課題をクリアすることが重要かなと思います。私が訪問看護ステーションにいたとき、大田病院に入れなかったという声も聞きました。救急医療の改善も必要かなと思います。
伊藤:安心してかかれる病院というのが一番の願いです。「あそこなら行ったほうがいいわよ」と言える病院になってほしいと願っています。入院にしても中西さんが言われたように「入院できなかったのよ」といわれることもあります。安心してかかれて、いざとなったら入院できるようになって欲しいと思います。
土井:伊藤さんが言われたことに応えられる病院にしたいと思います。その意味では信頼回復ですね。そのことが新大田病院建設の第一歩だと思います。
田村:6月に病院機能評価機構の病院機能評価を受けることになっていますが、自分たちの医療を客観的に評価するいい機会だと思っています。現在村岡院長が中心になって準備をすすめていますが、病院機能評価をうけることを内なる新大田病院をつくろうという感覚ですすめていこうと。僕たちは新しい器を作って魂をいれるのではなくて、先に魂を作っといて、それに見合った器を作っていこうと。そんなイメージで取り組んでいます。その意味では今年は大田病院にとって大きなステップになる年だと思います。
司会:夢というよりは現実の問題としての新大田病院ということが議論になってきていることが実感できました。今日の座談会をきっかけに職員や組合員の中で、本格的な議論がすすんでいければと切に願っています。本日はどうもありがとうございました。

 

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