インフォームド・コンセントと情報開示
大田病院 外科 田村 直

大田病院 外科 田村 直「インフォームド・コンセント」や「情報開示」という言葉をいろいろなところで目にする機会が増えてきました。情報開示の法制化の動きもあります。医療における「情報」のありかたをみなさんと考えていく必要がある時代になってきました。私たちは外科の医療,とりわけがんの治療にかかわる様々な問題を,日々検討してきました。その経過を報告するとともに,みなさんにいくつかの提案をしたいと思います。

12年前から試行錯誤の中勉強会

外科医としてがんの診療に携わるようになって,再発して治すことが難しくなった患者様のいろいろな症状(痛み,苦しさ,食欲不振など)を和らげる治療をきちんとやる必要性を感じ,12年前にキャンサークラブという勉強会を医師,看護師,薬剤師などと始めました。そのなかでモルヒネの基本的な使い方,痛み以外の症状をどうやって和らげていくか,精神的・心理的苦痛をどうやってサポートしていくかなどを学習してきました。試行錯誤の中,少しずつ問題点が整理され,ひとつひとつ解決してきました。そのなかの大きな変化が「インフォームド・コンセント」の問題でした。病気に関わることですから,いい知らせ,悪い知らせがあります。いい知らせを伝えるのは誰でも好きです。しかし,悪い知らせを伝えるのは気が進みません。しかし,診療していく上で伝えないわけにもいきません。私たちは自分の情報を自分で正しく理解した上で治療の選択を考えていけるようにするべきではないかと考え,がんの告知を積極的に始めました。患者様,ご家族に病気に関して何をどこまで知りたいかを確認したうえで病名や病状をなるべくわかりやすくお話し,治療をどうするか,その後の生活をどうするか,支援体制はどんなことが必要かなどを相談するようにしてきました。

現在,大田病院外科の患者様のがんの告知率は85%,再発の告知率は75%くらいです。

ご家族の思い悩む姿にぶつかって

この10年あまりの経験から「情報」についていろいろ考える機会がありました。基本的には自分に関する情報は自分のものであるという原則はみなさん納得がいくものだと思います。しかし悪い知らせについてはどうでしょうか。いろいろなケースがありました。特にご家族からの申し入れは多彩です。例えば,

「自分だったらがんであっても知らせてほしいが,自分の親にはショックをうけさせたくないので言わないで欲しい。」「親のことは息子である自分がいちばんよく知ってる。とにかくまず,自分に知らせて欲しい。それから親に伝えるかどうか考える。」
「介護するのは家族だ。家族の意向をいちばんに考えて欲しい。」
「うちの親は気が小さいので悪い知らせを聞いたら落ち込んでどうなるかわかりません。」
「悪い知らせを聞いたら治療をすべて拒否してしまうかもしれません。」
というようなものです。

家族の重大事件であるがんという病気に直面して患者様を思いやり,いたわろうとして思い悩むご家族の姿がありました。私たちは悪い知らせという「情報」をどうあつかうか,ご家族と患者様と相談しながらたくさんの選択肢のなかからひとつひとつを選び出してきました。そうしていくとだんだん根本的な問題点が明らかになってきました。

情報開示ができる実力と社会を

私たちに必要なのは「情報」を伝えるか伝えないかではなく,どのように伝えるかということを考えることではないでしょうか。悪い知らせの伝え方,伝えた後のサポートが重要です。インフォームド・コンセントはただ,説明して同意して承諾書にサインすることではなく,その過程のコミュニケーションや気持ちの共感・理解が必須であると思われるのです。

悪い知らせを伝えられる実力と悪い知らせを聞ける社会をつくっていかなければ,と感じているところです。真の情報開示はこうしたことと一緒にやっていかなければいけないのではないでしょうか。

 私たちはこれまで主に病院内で検討してきました。しかし,それだけでは見方が一面的なってしまう恐れがあります。城南保健生協の組合員のみなさまと意見交換できる機会として,生協の班会に参加させていただきたいと思っています。ぜひよろしくお願いいたします。

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